一年経過
”仕方ないかなっていう気はするけどね”
力無く笑って、そんな台詞は言わないでほしかった。以前と変わらない優しさが見えたとき、決心が揺らぎそうだった。
”僕はこれが絶対に面白いと思うんだ!”
普段から研究の話には力が入る。お酒が入ると拍車がかかる。そんな人だった。配属される新4年生には、同じ遺伝子に関する別の角度からのアプローチのテーマを与え続けた。”面白い遺伝子一つで10年は食える”は、名言だと思った。
議論したくても、経験不足、知識不足から話にならなかった。力不足の自分を当時ははがゆく思った。経験を積んで去年ここに戻ってきたとき、今ならこの人の勢いについて行けると思っていた。
今この人に、あの頃の勢いは無い。
この人を変えたのは、おそらくは・・・優秀な研究者を集めながらも、”研究”というものに対して非協力的な大学の体制。正確に言えば、協力と非協力が混沌としていて、少なくとも足並みは揃っていない。
光合成の研究の歴史は古い。中心的な研究、特に光化学系についてはもうやり尽くされた感がある。結晶構造も、解像度は3Åを切った。客観的に見て、このフィールドでこの先ずっとやっていけるとは思えない。そもそもオレ自身の興味は、少なくとも今のこの研究室の研究にはあまり向いていない。
変わった恩師、混沌とする大学の体制、移ってきた興味の対象・・・
今ここに居る、積極的な理由は見当たらない。
身勝手かもしれない。が、前向きな理由で選べる道があれば、できるかぎり挑戦していきたい。